【寄稿記事】知られざるイスラム金融——暗号資産との意外な接点

※当記事はぼんさいじ氏の寄稿記事です。


今回は、日本人には馴染みの薄い「イスラム金融」を紹介し、暗号資産との接点について見ていきます。そして、Decredがイスラム金融の条件に合致するかどうかを考察します。

イスラム金融とは何か?

「イスラム金融」とは、シャーリア(イスラム法)に従った金融手法のことです。1970年代のオイルブーム以降に本格的に拡大しました。現在では、世界の金融資産全体の約1.2%を占めています。規模こそ小さいものの、その独自の設計思想から、持続可能な金融のあり方として近年注目されています。

主な活動地域は、中東では、サウジアラビア・アラブ首長国連邦・トルコ・イラン・エジプトなど、アジアでは、マレーシア・インドネシア・バングラデシュなどです。

イスラム金融を担うのは「イスラム銀行」で、大きく2種類あります。イスラム金融のみを手がける「イスラム金融専業銀行」と、欧米系銀行が海外拠点でイスラム金融を提供する「ウィンドウ方式のイスラム銀行」です。後者では、通常業務の資金と混在しないよう、資金の流れを分離して管理しています。

イスラム法に基づく厳格な審査基準

通常の銀行は、融資の際に借り手の信用力・担保・法的適合性・収益性を審査します。イスラム金融では、これらに加えてイスラム法の観点から以下の基準が適用されます。

  1. イスラム法が許容する取引対象であること
  2. アルコール・豚肉の売買や賭博関連取引は禁止
  3. 実在する資産または実際に提供されるサービスを対象とすること
  4. ガラル(不確実性)の要素がないこと
  5. 取引から利益を受け取る者が、その資産またはサービスに関して事業リスクを負担していること

イスラム法の解釈機関——「シャーリア委員会」の地域的多様性

個々の金融スキームがイスラム法に適合するかどうかを判断するのが、「シャーリア委員会」と呼ばれるイスラム法の専門家で構成される機関です。イスラム法の解釈は、学派や地域によって異なり、それぞれの立場が尊重されています。

新たな金融商品への許容度も国・地域によって差があります。たとえば暗号資産については、マレーシアやバーレーンは許容的ですが、エジプトでは中央銀行と最高宗教機関が共に否定的な立場です。

また、銀行の内外には「シャーリア・アドバイザー」と呼ばれる専門家が置かれ、イスラム法の観点から助言を行っています。

イスラム教徒以外も使える——「選択肢」としてのイスラム金融

実は、イスラム金融は、イスラム教徒専用ではありません。非イスラム教徒も利用できますし、利用したからといって改宗の義務もありません。

逆に、イスラム教徒が利息付きの欧米銀行を利用することも実際にあります。イスラム金融はあくまで「選択肢のひとつ」であり、強制を伴うものではありません。

従来の金融と一線を画す「二大原則」

イスラム金融の取引には、主に2つの原則があります。「融資」を例に見てみましょう。

商取引原則——融資には具体的な商取引が必要

「商取引原則」とは、「お金を借りるには、その使い道を特定しなければならない」という原則のことです。

計画段階や商品の数量が未定の場合には、融資を受けられません。また、イスラム銀行自身が商取引の当事者の一人となります。

短期金融の例:ムラーバハ取引

  1. 買い手Aがイスラム銀行の融資を使って、売り手Bから家具を購入しようとする。
  2. 売り手Bがイスラム銀行に家具を売り、銀行は売り手Bに代金を支払う。
  3. イスラム銀行が買い手Aに家具を引き渡す。
  4. 買い手Aは後日、家具の代金に一定のマージン(利益配分)を上乗せして銀行に支払う。

この仕組みは、不確実な取引を排除し、投機による経済混乱をあらかじめ回避する効果を持っています。

リスクシェア原則——利益も損失も銀行と事業者で分かち合う

「リスクシェア原則」とは、「イスラム銀行が投資家・事業の当事者として融資に参加する」という原則です。

長期金融の例:ムダーラバ取引

  1. 事業者がイスラム銀行から資金を借り、事業に投資する。
  2. 事業が成功した場合、銀行と事業者は一定の割合で利益を分け合う。
  3. 事業が失敗した場合、損失も双方で負担する。

なお、欧米や日本の銀行では利益・損失を事業者と共有することはなく、事業者は成否にかかわらず期限内に返済しなければなりません。イスラム銀行のモデルは、これとは根本的に異なります。

イスラム金融の思想的根拠——イスラム法の「二大禁止事項」

ここでは、イスラム金融の理論的根拠である「イスラム法」についてみていきます。具体的には、「リバーの禁止」と「ガラルの禁止」の二大禁止事項について確認します。

リバー(利子)の禁止——なぜ利子はいけないのか?

リバーの定義

「リバー」とは、聖典コーランで禁じられているもののひとつで、端的に言えば「利子」を指します。

コーラン第2章第275節「……神は、リバーを禁じた」 

コーラン第4章第161節「禁じられたリバーを取り、不正に人の財産を貪った者には、痛ましい懲罰を準備している」

ただし、コーランには「リバーとは何か」の定義がありません。イスラム法学者たちが長年の議論を経て、以下の2種類の取引にリバーが含まれると結論づけました。

  • 不等価取引:価値の異なる商品同士の売買(例:100円分と80円のような異なる価値を持つ商品同士の売買)
  • 信用取引:代金や商品の引き渡しを後日に行う売買

ただし、これはすべての商取引に当てはまるわけではありません。食料品や日用品など「実物商品」を扱う商人が安く仕入れて高く売ることは、不等価・信用取引であってもリバーに該当しないとされています。

金銭の貸し借りについて

金銭の貸し借りについては、不等価取引・信用取引ともにリバーが含まれるとされます。利子のない貸し借りであっても、返済が後日になる時点でリバーが生じます。

しかし、現実の経済では、資金の貸し借りなしに商売を成立させることは困難です。

そこで、前述の「商取引原則」が活用されます。

リバーが禁じられない実物商品の売買をお金の貸し借りと組み合わせることで、教義を守りながら資金調達と同等の効果を実現するのです。

イスラムの労働倫理との関係

イスラムでは、汗水たらして働くことが奨励され、商売の利益は「労働の対価」とみなされます。

これに対して、お金を貸してあとは返済日まで待つだけという行為は、何ら働かずに利子を受け取ることになるため、リバーとして禁じられます。

ガラル(不確実性)の禁止——投機を未然に防ぐ

ガラルの元となる概念「マイスィル」とは?

コーランにガラルという語は登場しませんが、その思想的根拠となる「マイスィル」が記されています。

コーラン第2章第219節「彼らは酒とマイスィルについて汝らに問うであろう。言ってやるがいい。『それらは大きな罪であるが、人間のために多少の益もある。だがその罪は、益よりも大である。』」

「マイスィル」は、預言者ムハンマドの時代にアラビア半島で流行した賭け事の一種で、イスラム法ではこれを禁じています。

コラム:ドバイの競馬 
アラブ首長国連邦のドバイは競馬が盛んで知られますが、レースでは馬券が販売されていません。競馬は「純粋なスポーツ」として楽しまれているのです。賭け事を禁じるイスラム法の考え方が、このような形で日常に浸透しています。

ガラルの概念と具体例

ガラルとは、マイスィルの禁止を商取引全般に拡大した概念です。

ポイントは、「取引にどれほどの不確実性が含まれるか」です。

例として、妊娠中のラクダの子どもを売買する取引が挙げられます。どんな子が生まれるか、無事に生まれるかも不明で、予測は極めて困難です。

また、売り手が石を投げて当たった衣服を売るという取引も、どの服に当たるかは投げてみないとわからず、買い手が事前に把握できません。

こうした「運次第で一方が一方的に大損・大儲けする可能性のある取引」をイスラム法学者は「ガラル」と呼び、「マイスィル」と同様に禁止すべきと結論づけました。

このガラル禁止の考え方が、前述の「リスクシェア原則」へとつながるのです。

コラム:イスラム金融とデリバティブ・保険商品との接点
ガラル禁止の観点から、将来の価格予測が困難な先物取引などの金融派生商品(デリバティブ)は認められません。
また、欧米の保険のようにリスクを保険会社が加入者に一方的に転嫁する仕組みも不可とされます。
代わりに、保険会社も加入者とリスクを共有する「タカーフル」というイスラム型保険が存在します。
かつて日本の保険会社が採用していた相互会社の仕組みに近い概念です。

イスラム金融のメリットとデメリット

ここでは、イスラム金融のメリットとデメリットについて見ていきましょう。

メリット

  • 不良債権率の低さ:イスラム銀行は、融資先の事業に自ら参加するため「融資の質」が高く、欧米の銀行と比較して不良資産の比率が低いと報告されています。
  • 経営の健全性:案件への審査が厳格なため、経営の暴走が抑制されやすいとされています。通常、銀行の資産が拡大すると不良債権比率も上昇しますが、イスラム銀行ではその相関が見られないという指摘もあります。

デメリット

  • システミックリスクへの脆弱性:経済全体が一方向に傾いたときに同じ方向へ引きずられやすいリスク(システミックリスク)への耐性が弱いとされています。①取引対象がイスラム教徒に集中して分散が進んでいないこと、②融資が事業性資金に偏っていることが主な要因として挙げられます。

イスラム金融から見た暗号資産——許容か禁止か?

近年、暗号資産市場の発展に伴い、イスラム金融の観点から暗号資産をどう評価するかが議論されています。

ここでは、暗号資産における「売買」、「マイニング」、「ステーキング」の3点について、許容派(ハラール)と禁止派(ハラーム)の論点を整理します。

売買

・許容派:実用性があり社会的に広く受け入れられた取引手段は、イスラム法の「慣習的承認」とみなされ、売買対象となる財産となりうる。

・禁止派:価格変動が激しく不確実性が高いため、マイスィル(賭博)に相当する。

マイニング

・許容派:PoW型マイニングに伴う報酬は、計算力と電力を投下した結果得られるものであり、正当な「労働の対価」に近い。

・禁止派:膨大な電力消費は、環境保護や資源の節約を重んじるイスラムの倫理に反する。

ステーキング

・許容派:ステーキング報酬は、ネットワーク維持・プロジェクト貢献への利益配分であり、「ムダーラバ取引(長期金融)」に類似する。

・禁止派:固定的・保証的な収益構造は、リバー(利子)に相当しうる。

イスラム法準拠の暗号資産の実例

例えば、マレーシアの暗号資産取引所Lunoのシャーリア委員会によって、ビットコインやイーサリアムなどの主要な暗号資産の存在が認められています。

また、イスラム法準拠を明確に標榜する暗号資産として「Islamic Coin(ISLM)」があります。

独自のレイヤー1ブロックチェーン「HAQQ Network」のネイティブトークンとして開発されました。

主な特徴としては、①シャーリア準拠の設計、②新規発行時に自動でチャリティ活動へ資金が配分される「Evergreen DAO」の仕組み、③既存のWeb3開発者を取り込むためのEVM互換性、があります。

Decredはイスラム金融に適合するか?

ここでは、Decredがイスラム金融の条件に合致するという立場から、その根拠を考察します。

具体的には、Decredの「売買」、「マイニング」、「ステーキング」の観点についてみていきます。

ただし、実際に適合するかどうかは各国・地域のシャーリア委員会の判断に委ねられます。

売買

Decredは、BinanceやKrakenなどの主要取引所に上場されており、誰でも現物取引が可能です。

また、PoWとPoSを組み合わせたハイブリッドコンセンサスにより、単なる投機対象にとどまらない「価値の保存手段」としての社会的実需を獲得しています。

これはイスラム法の「慣習的承認」の考え方と合致すると解釈できます。

ただし、先物取引やレバレッジ取引は、ガラル(不確実性)の禁止に抵触する可能性が高く、現物取引に限定して検討すべきです。

マイニング

Decredのマイニングは、計算機と電力を投下してブロックを生成し、その対価としてマイニング報酬を受け取ります。

これはイスラム法の「労働の対価」という考え方と合致すると解釈できます。

ステーキング

Decredのステーキングは、報酬を受け取るだけではありません。

ユーザーは、専用のウォレットである「Decrediton」から、Decredをロックしてステーキングチケットを購入できます。そして、プロジェクトの意思決定プラットフォーム「Politeia(ポリティア)」における提案への賛否を自らの意思で投票できます。

つまり、ステーキング報酬は単なる資金拘束に対するリバー(利子)ではなく、「ネットワークの統治とプロジェクトへの貢献に対する正当なインセンティブ(利益配分)」とみなせます。

この構造は、「ムダーラバ取引(長期金融)」に類似しており、「リスクシェア原則」とも整合的です。

さらに、発行上限が2,100万DCRと厳格に定められており、管理者による恣意的なDecred増発が起こらない点も、ガラル(不確実性)を回避しているとも言えます。

おわりに——イスラム金融が現代に問いかけるもの

イスラム金融の根底にあるのは、「自分だけが儲かればよい」という発想の否定です。利益もリスクもコミュニティで共有し、実体経済に根ざした取引を行うことを重視します。

この考え方は、中央集権的な管理者を排除し、参加者全員でネットワークを維持・統治するDecredのステークホルダー重視の設計思想とも共鳴すると思います。

実体経済から切り離された過剰な金融レバレッジや投機が限界を迎えつつある現代において、「利子の禁止」「不確実性の排除」「リスクの共有」というイスラム金融の原則は、現代の金融設計に対して多くの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。

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