【寄稿記事】通貨を国家から解き放て——ハイエクとDecredの交点

※当記事はぼんさいじ氏の寄稿記事です。


今回は、経済学者フリードリヒ・ハイエクの著書『貨幣発行自由化論』をもとに、Decredの未来について考えてみます。

なお、この文章では「貨幣」と「通貨」を同じ意味として使っています。

ハイエクとは?

20世紀を代表するオーストリアの経済学者・哲学者です。景気循環をめぐってケインズと論争を展開したことで知られ、1974年にノーベル経済学賞を受賞しました。主な著作に『貨幣理論と景気循環』『自由の条件』などがあります。

ハイエクの主張——通貨発行権を国家から民間へ

「お金を発行するのは国(中央銀行)の仕事」というのが現代の常識です。

しかしハイエクは、これに真っ向から異を唱えました。

貨幣の発行は国家が独占するのではなく、民間が担い、互いに競い合うべきだと主張したのです。

なぜハイエクはそう考えたのでしょうか?

政府が通貨発行権を独占することの弊害

政府による通貨発行権の独占には、貨幣経済を広げる初期の段階ではメリットがあったとハイエクは認めつつも、現代においては主に3つの弊害があると指摘します。

① 人々がニーズに合わない貨幣を使い続けることになる

独占企業の製品しか選べない消費者と同じです。品質が悪くても使い続けるしかなく、提供側に改善しようという動機も生まれません。

② インフレが起きる

古代ローマの時代から、時の政府は通貨の品質を意図的に下げ、物価を上昇させてきました。ハイエクによれば、歴史上のインフレの大半は自然に起きたものではなく、政府によって引き起こされたものです。

③ 政府支出が際限なく膨らむ

通貨発行権を持つ政府は、財源が足りなければ国債を発行すればいい、という構造になっています。その結果、財政規律が失われ、政府の債務が膨れ上がっていきます。

貨幣を自由化するとどうなるか

では、自由化された世界ではどうなるのか。

ハイエクは、まず中央銀行を廃止し、民間銀行が自由に通貨を発行して競い合う状態を理想として描きます。

そのメリットとして、以下の3点を挙げています。

① コスト・プッシュ型インフレが防げる

原油高や賃金上昇などが「インフレの原因」とよく言われますが、それだけでは全体の物価は上がりません。政府がそれに合わせて通貨供給を増やすから、はじめてインフレが広がるのです。民間が通貨を発行・管理すれば、こうした過剰供給が起きにくくなります。

② 金融政策が不要になる

そもそも経済が不安定になるのは、市場のメカニズムであるはずの「貨幣」が、市場ではなく中央銀行によって管理されているからだとハイエクは言います。貨幣が市場に委ねられれば、金融政策そのものが必要なくなります。

③ より良い通貨が生き残る

競争市場では、優れた商品が選ばれ、劣った商品は淘汰されます。通貨も同じです。競争にさらされることで、政府独占では生まれなかった本当に使いやすい通貨が育つとハイエクは考えました。

暗号資産——ハイエクの夢の現実

ハイエクは「貨幣と貨幣でないものの間に明確な区別はない」と述べていて、貨幣を広く捉えていました。この視点に立てば、Decredを含む暗号資産もまた「貨幣の候補」の一つです。

現在、世界では法定通貨が主流の一方、民間主体で無数の暗号資産が発行され、取引所で日々競い合っています。これはまさに、ハイエクが描いた「民間による複数の貨幣の競争」が現実になった姿と言えます。

もっとも、そのほとんどはプロジェクトが頓挫し、価格がほぼゼロに近い状態です。競争は厳しく、生き残るのは容易ではありません。

しかしDecredは、そのなかで際立った存在です。

  • PoWとPoSを組み合わせたハイブリッド合意形成システムを採用
  • オンチェーンガバナンスツール「Politeia」による、ユーザー主導の意思決定
  • 10年以上にわたる継続的な開発実績

これらの要素から、Decredは今後、ハイエクの言う「人々が模倣したがるような成功者の選んだ貨幣」と言える存在になっていくのではないでしょうか。

まとめ

ハイエクは、国家は通貨発行権を手放し、民間に委ねるべきだと主張しました。

今日の暗号資産市場は、その主張をそのまま体現しているかのようです。

そして、その競争の中でDecredは、生き残るべき通貨の姿に近い存在として、着実に歩み続けています。

参考文献・画像

フリードリヒ・ハイエク『貨幣発行自由化論』改訂版 日経BPクラシックス 2020年

アイキャッチ画像 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Friedrich_Hayek_portrait.jpg